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信頼できる翻訳者が不足している

出版翻訳でも産業翻訳でも、発注者は信頼できる翻訳者の不足に苦しんでいる。こうなる理由はいくつもあるだろうが、いちばん重要な点は、翻訳希望者のほとんどが発注者の求める質を達成できないことである。言い換えるならば、発注者が安心して仕事を任せる翻訳者とそれ以外の人の間には、翻訳の質という点で、かなりの差があるのが通常である。とくに、翻訳者と翻訳学習者との間では、翻訳の質の点で実力の差がきわめて大きいのが通常だ。この点を手掛かりにして、翻訳という仕事の性格を考えていくこともできるが、ここでは、二つの点を指摘しておくにとどめよう。第一に、翻訳者と翻訳学習者の間で実力に大きな開きがあるのは、翻訳者にとっても翻訳予備軍にとっても、きわめてありかたいことだといえる。なぜそういえるのかは、逆の場合を考えてみればすぐにわかる。翻訳を職業にしている人が一万人もいるとは考えにくいし、翻訳学習者が数万人より少ないとも考えにくい。翻訳者と翻訳学習者の間に実力の差がそれはどないとすると、どうなるだろうか。翻訳者の側からみても、発注者の側からみても、翻訳の供給が需要をはるかに上回ることになる。供給が需要を大幅に上回るとき、どうなるかはいうまでもない。価格が急激に低下して、翻訳は職業としての魅力を失う。おそらくは数十人ほどでしかないにしろ、出版翻訳だけで生活費をまかなえる人がいるのは、翻訳者と翻訳学習者の間で実力の差がきわめて大きいからなのである。第二に、翻訳予備軍は多く、実際に翻訳を受注できる人は少ないので、競争がきわめて激しいと思えるかもしれないが、これは大部分、錯覚にすぎない。問題は数ではなく、質なので、じつのところ、競争はそれほどきびしいわけではない。発注者からみれば、質の高い翻訳ができる人は不足しているのだから、質を高めることさえできれば、翻訳者への道はそれほどけわしいわけではない。出版翻訳であれば、書店か図書館に行けば翻訳書が並んでいるので、競争相手の翻訳の質を確認できる。翻訳者と競争できるまで、実力を高めればいい。実力を高めるためには翻訳入門書を読む必要はないし、翻訳学校に行く必要もない。他の翻訳学習者とおなじ方法をとっていては、大量にいる翻訳予備軍から抜け出せないことははっきりしているのだから。