中部地方のある大きな川沿いを行く県道だった。青緑色の水をたたえた深い谷間の中腹を、かなりの距離にわたって辿り、数百もの小さなカーブが連なる道だ。もう4半世紀も前の、ある夏の終わりに、私はその道を自転車で旅した。自宅を出てから4日目の午前のことで、草色の自転車はすでに300kmあまりの距離を消化していた。人けも通りかかる車も、途中の集落とてほとんどないその県道は、今でもたびたび崩落で迂回不可能・通行止めとなる要注意の道だが、当時はさらに道路状況が厳しく、はるか先に出口の光だけが輝いている、まったく照明のないトンネルもあった。
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そんな暗闇のなかに遠い遠い円形の光だけを目標にして入り込むと、頼りないダイナモの灯火ではいったいどちらの壁に近寄っているのかすらわからなくなり、次いで暗黒の宇宙のなかを飛行しているかのような奇妙な浮遊感に襲われた。今思い出すとかなり冷汗ものだが、その旅を無事終えて実家に帰りついたとき、その数日間がかつて経験したことのない数日であったことを私は知った。冒険と呼ぶほど激しいものではないし、かといってピクニックというほど気楽なものではない。強いていえば、それは長い物語、厚い本を読み通した体験に似通っていた。だから、ずっと後になって、その旅の、その本の、意味が少しわかることだってある。